木村乃さんのお招きで、明治大学の「地域活性化システム論」という授業の一コマを担当させていただいた。
通常この授業は、地域活性化に取り組んでいる実践者の話をオムニバス的に聞きながら、学生自身が地域活性化への理解を深めていくというものだそうだが、私からは少し理屈っぽい話をさせてほしいとお願いした。

1 システム論的視点

まずは、自分の立ち位置を紹介した後、システムとして物事を捉える際の基本的な枠組みとして

要素、基本方程式、環境、そして相互作用

について紹介した。

2 複雑適応系として地域を見る

複雑適応系としてシステムを見ると、要素(複雑適応系エージェント)は、自らの基本方程式(戦略という言い方をする)を周囲との相互作用を通してアップデートしていく。これがいわゆる学習だ。
学習のプロセスとしては「知識型」と「探査型」の二種類があり、地域に限らず人間の社会集団では、放っておくと「知識型」が優位になる傾向がある。

このあたりの話は、先日の「地域仕事づくりプロデューサー戦略会議」でも話した内容だ(「学習コミュニティとしての地域を変える大学の役割」をご参照ください)。

3 GemeinschaftとGesellschaft

「地域活性化」に取り組む人にとっての地域は、Gemeinschaft(血縁、地縁、友情などにより自然発生した社会集団)なのか、それともGesellschaft(利害関係に基づいて人為的に作られた社会集団)なのか。
どちらと捉えるかによって手法は大きく変わるのだから、取り組む側がそれを十分意識している必要がある。
それぞれの場合について、システム論的に考える、すなわち、要素、基本方程式、環境、そして相互作用のどれに対してどんなアプローチをするかを考える必要がある。

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更に最小限のエネルギーでそれを実現しようとすると、人よりも企業を扱うほうが効果的だ。
理由はふたつある。ひとつめは、企業自体が利益を追求するという観点から基本方程式を最適化しようとする系である点だ。自らが環境に適応して変わらければならないという圧力が常に作用しているため、個人と比べると基本方程式に方向性を与えやすい。
ふたつめは、地域の資源との関わりが深い点だ。地域企業は商品市場としても労働市場としても、地域と深く関わる。企業の基本方程式が変わると、地域との相互作用も変わっていく。系としての地域を徐々に変えていくことにつながる。

4 ハンドルを捨てハーネスを持て

ここまでの話を理解した上で、システムとしての地域を変化させるにはどうすればよいかという視点から複雑適応系マネジメントの基本を紹介した。

要点は、計画通りに動かすのではなく、小さな揺らぎを要所要所に与えてシステムの自己組織化をすすめること(このあたりは時間の関係もあり、割愛した)。
そのために

  • 相互作用を変える
  • 探査型の学習を強化する
  • 意味付けをする

という三点を示した。これは小難しく言えば

多様な主体との相互作用のなかで、仮説検証を繰り返し、環境との適応度の視点で淘汰を進める

ということになる。
システムとしての地域を変革しようとするなら、こういったことを頭のなかで組み立てた上で実践の場に参画する必要がある。

最後に

環境を変える活動を戦略といい、相互作用を変える活動を戦術と呼ぶ。戦略は大きな構想を通して大きな影響力を持ち、戦術は環境への適応を通して小さな影響力を持つ。

システム論に沿って実際に行動ができる人は、戦略家よりも戦略を理解して戦術をコントロールし、戦略すら進化させる人。

今日出会った学生たちが、そのスタートラインに立てたなら私の話も役に立ったということになろうか。
結果が見えるのは10年後かな。