NPO法人ETIC.が主催する「地域仕事づくりプロデューサー戦略会議2016」に参加した。
このイベントは「地域から新しいスタンダードを発信する」をメインテーマに、
- Sustainability:社会の多様性や資本を豊かにする、新しい循環型経済の作り方
- Innovation:ローカルベンチャーがつくる、新しい働き方とこれからの地域産業
- Switch:地域の主体性にスイッチを入れるコーディネーターのあり方
について、全国の実践者が知恵を持ち寄るイベントだ。
私自身は、
目次
地域で学びの文化をつくる 〜協働の仕組みと社会的学習〜
という分科会のスピーカーの一人としてお招きいただいたので
地域が変わる学び方と大学の関係
というテーマで少しお話をした。
1 学習を複雑適応系の視点で考えてみる
複雑適応系として地域を見ると、その要素である人や組織は複雑適応系エージェントとして扱われる。複雑適応系エージェントは
- 自分なりの戦略を持つ
- 戦略を変更することができる
- 環境を変化させる可能性
という性質を持ち、環境や他のエージェントとの相互作用を通して自らの戦略をアップデートする。これが学習だ。
学習のプロセスとしては、最適解がわかっているという前提で、それに従う「知識型」と、最適解は見つかっておらず仮説検証を繰り返そうとする「探査型」の二種類がある。
「知識型」では、既有の戦略が良い結果につながれば、その戦略が強化され、悪い結果につながると戦略のアップデートができなくなり混乱する。その結果、正しいと思いたい戦略にしがみついたり、一発逆転を他者に期待するといったことが起こる。
「探査型」では、試行した戦略が良い結果につながると、それが一つの成功戦略として知識化され「知識型」にシフトし、悪い結果につながると、試行錯誤にブレーキを掛けてしまい、結果として「知識型」に移行する。
したがって、地域に限らず人間の社会集団では、放っておくと「知識型」が優位になる傾向がある。
環境変化が緩やかであれば「知識型」が優位でも困ることはないしかし、変化が激しい状況ではより環境に適応した会を常に探す必要に迫られる。そのため、「探査型」が一定数を維持できる仕組みをシステム(この場合は地域)の中に持っておく必要がある。
2 「探査型」を増やす方法
「探査型」を増やすには、ふたつの方法がある。
ひとつめは、「探査型」のエージェントを外部からシステム内に持ち込むこと。
地域に「よそ者、若者、バカ者」が必要だと言われるのは、彼らが「探査型」エージェントとして、環境変化にシステムが適応するための種を見つけるからだ。
ただし、「探査型」エージェントだけでは、それがシステム全体に波及することは少ない。彼らの取り組みを意味づけし、システムの中に組み入れる役割の別のエージェントが必要になる。それがコーディネーターだ。
地域で言えば、移住してきた若者に代表される「異物」の様々な取り組みをサポートしつつ、外部環境への適応と地域の(多くは言語化されていない)戦略に合致するかという観点からそれらを評価・淘汰し、地域の中で認知・支持される取り組みになる(正式化される)ように、一種の政治的な活動をするのが地域コーディネーターだ。
ふたつ目は、「探査型」の行動や失敗に対してシステム全体が寛容になること。「探査型」エージェントが「知識型」に変化するのは、「探査型」の行動に対する「不寛容なプレッシャー」が強い場合である。
地域全体として寛容さを持てるようになるのが望ましいが、その前段階としては「不寛容なプレッシャー」から「探査型」エージェントを守る存在がいるとよい。それもまた、地域コーディネーターの役割になる。
3 学習コミュニティとしての地域を変える
地域を学習コミュニティとしてみたとき、PBLやインターンシップといった大学の教育プログラムが果たすべき機能は三つある。
ひとつめは、地域内の相互作用を変えることだ。学生が地域に参画することで、地域内の相互作用の形を変えることができるし、地域が学生を受け入れることで、学生が相互作用の能力を高めることにもなる。
ふたつ目は、高い成果を目指すことだ。学生が高い成果を目指すことで、地域内の大人の行動が変わるし、高い成果につながる取り組みによって、学生の仮説検証能力が高まる。
三つ目は、意味付けをすること。活動を意味づけすることで、地域が自らの戦略を進化させる一方で、活動を意味づけすることで、学生は「離れた問題に適用する」「仮説を立てる」「振り返る」といった深い学習に進むことができる。
大学が地域と関わる際には、ただ漫然と地域に学生を出しても、地域、企業の双方にとって望ましい結果にはつながるものではなく、これらのことを
意図的に仕込んでおく
必要がある。それによって、地域を学習コミュニティに変革していくところに大学が地域に関わる意味がある。実のところ東北学院大学のCOC事業も、宮城県でのCOC+事業も、この「仕込み」を重視した設計にしている。
4 意外な反応
こういった話はどちらかと言うと「空中戦」の話。「何を言っているのかわからない」「もっと具体的な事例を示せ」と言われても仕方のないところだ。しかし、この分科会に参加した人たちは、地域が学習コミュニティになっていく仕組みの話に対して徹頭徹尾真剣に大きく頷きながら聞いてくださった。
それは大学関係者が多かったからなのか、あるいは地域コーディネーターのみなさんに、大学と関わる際の理論武装につながると判断してもらえたのか、こちらとしてはつかみようもないのだが、何かのお役に立てたなら嬉しい限りだ。
もう一人のスピーカーである高知大学の池田啓実先生、コーディネートをしていただいた東京都市大学の佐藤真久先生に心から御礼を申し上げたい。ありがとうございました。
またどこかでこんな話をしたいなぁ・・