9月6日と7日の二日間、「地域協働教育コーディネーター養成講座(FD/SD研修)」と「『地域の課題』夏期体験講座」を開催した。
これは宮城県のCOC+事業「みやぎ・せんだい協働教育基盤による地域高度人材の育成じぎょう」の中で教育手法やコア科目の設計を担当する教育プログラム開発部会と、地域と連携した教育科目の単位互換を進める単位互換部会、それらのノウハウを教職員に移転するFD/SD部会の共催によるもので、大学生と教員が同じ場で同じプログラムに参加しながらそれぞれに必要な学びを得るという仕掛けだ。
学生向けの授業は、座学型の講義のエッセンシャル版を二日間で4コマ設定し、その中では教職員も同じ課題に取り組んでいただくようにした。さらに前後1コマずつをFD/SD研修部分として加えて合計6コマとした。
目次
1限目:ディープ・アクティブラーニングの考え方と授業設計
1限目は教職員向けに、「深い学習」に結びつく学び方や、実際の授業を設計する際の仕込みについて紹介した。いつも伝えていることではあるが、
全体として「深い学習」に誘えるようなカリキュラムマネジメント
が大事であり、個別の授業の中でどのような手法を用いるかは、その先の話であるという点を強調した。
その上で、今回は大学2〜3年次を想定した座学型の授業として、今回の『体験講座』をどのように設計したかについて紹介した。
2時限目:視点と要素
2限目は学生と教職員が同じテーブルで学ぶ型式の授業で、1限目に引き続きインプットが中心。
アクティブ・ラーニングだからと言って、インプットを全くしないで授業を展開するというのは、少なくとも高等教育ではありえない。教員が数十年に渡る研究を通してえた知見を得るのに同じだけの時間をかける訳にはいかないからだ。また、そもそも教員も学生時代には大量のインプットを受けた上に研究を積み重ねている。
今回のインプット、すなわち講義のテーマは、「地域を題材に学ぶことの意味」と「事象を理解する視点と要素」。
前半は、地域が空間的時間的文脈の中にあり、一般界としての知識をそのまま適用することはできず、個別の状況に応じた解を編み出していく必要があるという話で、多くの学生がすんなり理解してくれる。
後半は、我々が事象を読み解こうとする際にその全貌を知ることはできず、適切な範囲に絞り込んだ視点に基づいて要素分解をすることで、一部分を理解するのだという話。これは研究者にとっては至極当然の話だが、学生、特に卒業研究に取り組む前の学生にとってはすんなりと飲み込むのが難しいことがままある。
今回は、同じ教室内にいる様々な分野の教職員から、(1)それぞれの専門分野とテーマ、(2)それはなにを解き明かすものか、(3)そのためにはなにを調べどのように考えを組み立てるか、(4)その際重視していることはなにか、と言った点をヒアリングすることで、多様な研究者がもつ共通項としての「視点とようそ」についての理解を深めてもらった
3時限目:視点を定めて題材を読み解く
前の時間で考えた「視点と要素」を意識しつつ、地域企業の経営に関するケース教材を読んだ。
視点を定めて読むことで、必要な情報が何かを意識し、それが見当たらない場合にはどのようにして補完するかを考える必要がある。
通常の講義では時間外の追加調査を求めるところだが、今回は短時間バージョンのため、ある程度は一問一答形式の質問で答えることで対応した(「一問一答」コーナーは、私より確かな情報を持つ伊藤晋特任准教授におまかせ)。
ケース教材の内容をある程度理解したところで、あらためて自分の視点を定め、要素を抽出し、それぞれの要素を明確にした。
最後に、学生には、どのような「視点と要素」を持って題材に取り組むか、また、この二時間の学びが自分の専門とどうつながるかと言った点を、ミニッツペーパーとして提出してもらい、学生と教職員の双方に対してはこの企業や業界に作用する望ましい外部環境と、内部の強みを調べてくるという時間外学習の課題を提示して終わった。
4時限目:視点と要素のブラッシュアップ
1日目のミニッツペーパーをふりかえりつつ、適切な視点を定め要素を抽出するということに多くの時間を費やした。
学生の視点、要素、各要素ごとの現状を共有した後に、教職員の視点、要素、各要素ごとの現状をいくつか紹介してもらい、それらを合わせて、ケース企業の状況を見る「視点と要素」について各自が考えを修正した。
また、「視点と要素」がどのようなものであるかを明確にし、Relate(関係づける)やHypothesize(仮説を立てる)といった、より「深い学習」に誘うために、それぞれの教員から聞かされた研究プロセスをふりかえり、その共通点を見いだすワークを行った。
5時限目:未来を描き学びを振り返る
学生にとっては最後の時間。
宿題として調べた外部環境や内部の強み、ケース教材から読み取れる経営者の思いを基に、ケース企業のあるべき姿を描いた。ただし、この講座が地域企業のコンサルタントを育てるためのものではなく、事象をある視点で理解し、更にその未来像を描けることを主題にしているので、実際の経営でやるような財務ビジョンからマーケティング、プロセス、組織・人材に展開するのではなく、それぞれの視点に沿って、各要素の理想像を考え、それらを統合して企業のあるべき姿を描くという方式にした。
そして、各要素の将来像と現状のギャップとしてはじめて課題が生じるということを体験的に学んでもらった。
さいごに、4コマの講座の中でじゅうようだと感じた事柄を30個抽出し、それらと、「地域企業を題材に考えること」「自分自身の専門の学び・研究」との関係を図示するワークを行い、その結果を、学生、教職員織り交ぜて共有し、共通項を見いだすというスタイルでこの二日間の学びを振り返った。
6時限目:教職員のふりかえり
学生たちは前の時間で終了だが、教職員にはもう1コマお付き合い頂いた。
最後の時限では、ミニッツペーパーに対するフィードバックの手法について、具体的な答案を題材に考えた。
科目の評価指標に基づいたミニッツペーパーの問い建てをしているので、フィードバックもその指標にそって行うことになる。今回の事例だと、「思考の枠組みを過たずに使える」、「自分自身の学び方を言語化できる」ようになるためのフィードバックを実施する。
実はうっかり「なにを目指してフィードバックをするのか」という説明を飛ばしてしまい、参加した教員から質問(というよりお叱り?)を受けたのだった・・反省。
ただし、一気に多くの項目について改善を促すと学生は処理しきれなくなるため、重要度の高いポイントに絞り込んで問いを立てるといったノウハウを提供した。
最後に、ここまでの講座全体をふりかえり、(1)授業の内容、(2)学生の反応について気づいた点を共有し、その上で、それぞれの大学・短大・高専で取り入れられる点と、クリアすべき課題について議論した。
参加した教職員からは
- 様々な視点からの見方や考え方を知ることができ、とても参考になった。純粋にとても楽しかった
- 他大学の学生や先生のお話を聞けて、とても貴重な体験ができた
- 非常によくプログラム設計されていて、取り入れたいところが多かった
- 自分の授業に持ち帰ることができる学びが多かった
といった感想を頂いた。
個人的には、参加した教職員が自身の専門性をベースに、多様な視点でケース教材を紐解いていたのがとても印象的で、「大人げない(失礼)」くらいにちゃんと取り組んで考えたことを学生にぶつけていたのが、楽しくもあり嬉しくもあった。
大学生と教職員が同じ場で学ぶという型式のFD/SDは、まだまだ主流ではないだろうが、教職員が「教える側」と「教わる側」の視点を何度も往復することを通して得る学びは、教職員だけの研修では到底得られないもの。
ぜひこのような形の研修の機会を増やしていきたいと思う。
ここに至るまで裏方として支えてくれた、コーディネーター(教職、事務職)各位にはどれだけ感謝しても感謝したりない二日間だった。
地域協働教育推進機構による公式記事は >> こちら