学生による政策提言

2018年3月22日。
盛岡市役所にて「東北出身学生による東北まちづくりワークショップ」の報告会が開催された。
このワークショップは、仙台市が東北各地の自治体と連携して、東北出身の学生にその街への関心を高めてもらおうというもの。
その手法として、「政策提言」を考えるという、少々無茶な取組だ。
今回は初回ということで岩手県盛岡市に対して政策提言するワークショップとなった。

1 政策提言合宿In盛岡

学生募集のためのイベントを1月に開催し、2月13日から14日にかけて、集まった20人ほどの学生で盛岡での政策提言合宿に赴いた。

1日目の最初のセッションは、「政策提言とは何か」という講義。
政策提言のプロセスは、自治体の課題を発見し適切な解決策を示し、行政と地域の人の役割分担を設計し、必要な資源とプロセスを明らかにするもの。
さらに言えば、その先の実行、検証、改善までしっかりイメージして初めて「地に足の着いた」制作になる。
学生が「政策提言イベントのための提言」をつくらないようにするために、最初に嫌というほど伝えておく必要がある。

政策提言の意味を理解したところで、学生間の問題意識の共有、現状認識、「顧客」設定、将来像の想定、問題の構造、課題化といったプロセスを進んでいった。
ここまで進んだところで、テーマごとに地元の関係者からのヒアリングを実施し、更に課題の深掘りに取り組んだ。

合宿の二日目は、政策素案の作成。
ある程度課題のアタリヲツケた状態で、解決策と投入すべき資源を考えるワーク。
これを通して、さらに必要な調査項目を洗い出していった

2 政策提言

合宿から1ヶ月あまり。
最終的に以下の五つの政策が提言された。

  • 子育て支援:限定クーポンによる育児負担の軽減
    子ども手当ではなく子育て目的の支出に限定したクーポンを発行することで、子育てにかかる費用負担を軽減しようというもの。
    (所感)クーポンを負担軽減の視点ではなく、教育水準の向上、貧困の抑止といった方向で考えられていればもう少しおもしろい提言になった可能性がある
  • 観光振興:外国人観光客誘致のための交通改善
    中国/韓国からの観光客を増やすために花巻空港への直行便誘致と県内への交通の整備に取り組むというもの。
    (所感)交通環境が良くなれば観光客が増えるというのはロジックとしてかなり甘い。また、国内客のほうが経済効果が多いという現状分析をしていながらインバウンドを増やすべきというのは筋が通らない。ただ、このチームはヒアリングの際に有益な情報が得られにくい環境にあったことを少し割り引いて見てやりたい
  • 若者定着:ミスマッチを防ぐための情報発信とメンター制度の推進
    地域企業の採用強化のための情報発信と、定着のためのメンター制度の導入を進めようというもの。
    (所感)採用と定着のための方策が混同されている。どちらか一方に対してより効果的な政策を示したほうが良かった。また、個別企業の取り組みと行政が実行する政策をしっかり切り分ける必要がある
  • 労働生産性向上:不動産業における生産性改善
    岩手における労働生産性を底上げするために、著しく生産性が低い不動産業に対して、ARを活用することで生産性向上を目指すというもの。
    (所感)生産性について、経済学の視点から分析しているが、現実の経営とリンクしていない。そのため、ARの導入という表面的な提案になっている
  • 移住定住:看護人材のUIJターン促進
    看護人材のUIJターン希望者が多く求人も多いのにマッチングが充分でないため、マッチングに関する民間の取り組みを集約して効果を高めようというもの。
    (所感)民間の取り組みを集約させることを政策にするならば、行政としてなにをするのか具体的に示す必要がある

3 学生たちに伝えたこと

これまでの取り組みと提言の内容を踏まえて、学生たちには以下のようなことを最後に伝えた。

全体として、現状分析は比較的しっかりなされていた。
示された「課題」をそのまま鵜呑みにせず、マクロデータを分析するなどして自分たちで現状と将来像から課題を見出していたのはとても望ましいことだと言える。

一方で、解決策についてはとたんに稚拙なものになっていた。
マクロデータが示すものと現実の出来事がつながっていないのが原因だ。
データはデータとして大事にしつつ、それが示す現実の出来事を理解できるようになることが彼らの課題だ。

とはいえ、ほとんどの学生がまだ2年生。
また、本気で精度の高い政策提言を求めるなら、枠組み自体を変えなければ学生たちにとって酷というものだろう。
たかだか一回の合宿や「ワークショップ」でまともな政策提言ができると思うほうがどうかしている。
だからこのメッセージは、学生の伸びしろへの期待と解釈していただきたい。

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