地域若者チャレンジ大賞2015の審査を振り返る(長文)

今日は「地域若者チャレンジ大賞2015」、全国の実践型インターンシップ事例の報告&審査会だ。
全国から九つの事例がノミネートされ、午前中にブラッシュアップを受けた後、午後から報告と審査会になった。

2015-11-07 11.42.45

このイベントでの審査の基準は
①若者の取り組み、②大人の関わり、③事業成果、④社会性
の4つに分けられるが、それぞれどこを強くアピールしてくるかはコーディネーターによる。
非常に高い事業成果を出していても、他の項目が表現されていなくて評価が上がらないこともある。
審査員をお引き受けしたものの、悩ましいことこの上ない。

とはいえ、自分自身がどういう目でそれぞれの事例を見ていたかをお伝えすることは、コーディネーター講座を担当する身として果たすべき責任であるようにも思うので、ここに記しておく。
あくまで、個人の判断であり、審査会の統一見解ではないので念のため。

では、発表順に振り返り

  1. 中四国代表 「インターン生は経営企画室! ~温泉街のあり方を変える 朝食空間 劇的ビフォア・アフター」
    島根県の小さな温泉地で、旅館の業務改善と他の旅館や地域と連動した「朝食会場」の設置に取り組んだ事例。
    旅館の業務改善では600万円以上の経費削減に成功し、「朝食会場」づくりを通して、旅館の生産性向上と地域の交流人口の増加に貢献した。このプロジェクトは、実践型インターンシップが事業成果に寄与することをはっきりと示した事例。将来の経営革新と地域再生への道のりをイメージさせる事例だった。
    惜しかったのは、プロジェクトの設計通りに淡々と進んだ印象が持たれたこと(実際にはいろいろあったはずなのだが・・)。
    プロジェクトの進捗プロセスを丁寧にひもとく中で、地域の中での位置づけや、若者の活動を通して地域にどのような影響・変化が生まれたかを可視化できたのではなかろうか。
    また、インターン生の変化も知ることができたはず。それが見えなかったのは誠に残念。ただ、昨年度から進めているコーディネーター養成講座の趣旨にぴったり合ったよいプロジェクトで、審査基準を脇に置けば私の中ではイチオシのものだった。
    違う種類のアワードを設定したいなと言うのが個人的な感想。
  2. 東海代表 「夢こそ、モノづくり原動力!」 ~できるのか?知識0からの工業製品開発~
    愛知県の工業機械・工具の商社で、専門外の学生が新型の工具を一つ企画提案し、製造にこぎ着けた。
    また、営業活動の実績も750万円ほどに達した。この事例は、工学系ながらものづくりを専門としない学生が商社でのインターンシップに挑戦し、ユーザー目線にたって新たな製品を生み出すに至ったもの。ものづくりに関わる際に、メーカーではなく「商社」に入るという選択をした点がまず秀逸。
    そこで、多くの物作り企業をサポートすることになるであろう工具を開発した点は、驚愕に値する。
    また、学生の状況を見て、当初想定していたものとは異なるプロジェクトを実施した点もすばらしい。
    経営者や社員とインターン生の関係性もよく、理系人間としては男泣きするような事例だ。惜しかったのは、「これが本当に再生産可能な仕組みのか」という点について、必要な要素や条件が言語化されず確証が得られなかったことと、インターン終了後の学生ののびが見えにくいものであったことが挙げられる。
    勘のよいコーディネーターが担当しており、おそらく、来年にはそのあたりもしっかり言語化されたものが出てくるのかなと密かに期待しているところだ。個人的には、このプロジェクトに参加したSくんの、理系っぽいはにかんだ笑顔にとても好感を抱いているし、このプロジェクトには「審査員特別賞」が授与された。
    それだけ玄人好みの渋い事例だったと言えるだろう。
  3. 九州代表 「さつま焼酎でつなぐ乾杯の輪 EC立ち上げから営業まで 全国によか晩をつくる」
    鹿児島県の酒造メーカーで、自社商品だけでなく地域の商材も集めたEC立ち上げサイトを制作し、全国販売を目指したプロジェクト。一ヶ月間、鹿児島県の伊佐地方に泊まり込んで、地元の「焼酎文化」を受け止めた学生が、ECサイトを作っただけではなく、自ら発案し、全国行脚の販売にのりだしたもの。
    全国各地で、薩摩ならではの「酒飲み文化」を伝えることで、見知らぬ土地で100人以上に焼酎を販売した。このプロジェクトに参画したインターン生「トクノシマン(将来故郷の徳之島を活性化したいらしい)」のキャラクターと、受入企業の社長のお人柄が見事にマッチした事例。全国行脚に出かける際には、会社の人や街の人が集まって盛大な壮行会をしてもらったという。
    そのような関係性を地域で紡いだ背景には、丁寧な人との関わりがあったことは想像に難くない。
    そんな人柄が生かされた営業方法が功を奏したと言えるだろう。惜しむらくは、事業成果がまだ十分ではない点と、他の人で再現できる確証が持てない点。
    愛すべき「トクノシマン」だからできたことなのか、違う人でもできるものなのかはとても気にかかるところだ。
    また、地域の中核企業である受入企業がこれからどのように経営革新に進むのか、といった点が次年度以降見えてくるとさらによいものになるだろう。
  4. 北信越代表 「国産材木製遊具・教材を全国へ! 新たな市場を創りだし、全国へ」
    長野県塩尻市の木製品の製造卸の会社で、国産材を用いたおもちゃを保育園・幼稚園に広めることに取り組んだプロジェクト。学校やアルバイトとインターンシップを両立(鼎立?)させながら、地元の保育園に、木のおもちゃではなく「木育」講座を企画・提案することで、子供たちが木に触れ気を意識する機会をスムーズに提供した。一見して成果が見えにくい事例だが、「木のボールを浮かべることで、水に顔をつけることができなかった子供がプールで泳げるようになった」などというエピソードから、保育園の意識が変わっていくプロセスを垣間見ることができる。また、「全国木育サミット」が来年塩尻市で開催されるなど、行政施策との連携も進むきっかけとなった。惜しい点は、事業成果がまだはっきりと見えなかったこと。
    もう少し事業が進んで、インパクトがだれの目にも見えるようになるのを楽しみにしている。
  5. 関西代表 「オシャレでおばあちゃんが笑顔になれる社会を目指して ~シニア向けアパレルブランド立ち上げプロジェクト~」
    兵庫県で介護用品のレンタル販売を行っている企業が、3人の女子大学生の参画を得て、シニア向けの衣料品の製造に取り組んだ。高齢者のニーズをくみ取った上で、「小売業からメーカーに」という大きな一歩を、インターン生を活用して踏み出した事例だ。0からのブランド立ち上げに際して、3人のインターン生が明確に役割分担し、マーケティング、企画、製造のプロセスをやりきったというのは、会社にとってもインターン生にとっても大きな朝鮮で会ったに違いない。惜しむらくは、まだ販売実績がないという点。インターン生の一人がこの事業の担当者として就職したということなので、マーケットからの支持を得、ブランドを育てていくプロセスに大いに期待するところだ。
    高齢者がおしゃれを楽しむ。それは、この国の文化を変えることにつながるすばらしい事業だと思う。
  6. 東北代表 「古い建物を学生の手で蘇らせよう!リノベーション事業・シェアハウス部門の構築!」
    宮城県で家業として営んでいるリフォーム屋さんで、個人宅をシェアハウスにリノベーションする新規事業を立ち上げた事例。
    施主さんの不安に一つ一つ丁寧に答えることで信頼を獲得し、「居・食・熟」というコンセプトメイクから、外装デザインコンテストの実施、社ハウスルールブックの作成、資金調達と八面六臂の活躍ぶりを示した。
    また、インターン生自身が卒業後、自ら故郷である福島で、シェアハウスを活用したコミュニティ形成の事業に取り組もうとしているという点が注目に値する。
    課業から企業へというプロセスをインターンシップで切り拓きつつある点、地域の中で信頼関係をしっかりと構築した点、インターン生のその後の動きが明確である点など、このアワードの審査基準にてらすとバランスよく高い評価となった。
    結果的に最優秀賞に選ばれたが課題もある。なにより、シェアハウス事業が本当に受入企業の経営革新につながるほどの事業に育つのかはまだまだ不透明である点が引っかかる。
    数年後、この企業がどのように変革を遂げているかを楽しみにしたいところだ。

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  7. 北海道代表 「地域に拓かれた大学を目指して」
    大学向けにe-Learning のシステムを提供する企業で、高校生向けの大学情報のサイト作りに取り組んだ事例。
    大学進学率の低い道東出身で、自分自身が高校生の時に大学進学に関する情報がほとんど得られなかったというインターン生のO君が、自分自身の問題意識に根ざした形で、新しいサイトの構築に取り組んだ。
    その中で、保護者向けの情報の必要性に気づき、最終的には140以上の記事を作成した。
    事業成果がまだはっきりとした形で見えていないのが残念なところだが、O君が修了後もか変わり続け高校生向けのメディアをさらに立ち上げているという。
    あらゆる局面で当事者としての意識が発揮されており、若者の生かし方として優れた事例であったと言えるだろう。
    同様のサイトも多い中で、このメディアがどのように育っていくかに注目したいところだ。
  8. 関東代表 「お薬手帳の大切さを広めたい ~課題を社会化し、共感を力に挑んだ事業づくり」
    ソーシャルプリンティングカンパニーを標榜する老舗印刷会社で、高齢者の「お薬手帳」不携帯問題に取り組んだ事例。
    高齢者151名にヒアリングし、高齢者にとっての「お薬手帳」の現状や課題、ニーズを引き出し、クラウドファンディングで資金調達して新しいタイプの「お薬手帳」を創りだした。
    事業成果としてはまだまだこれからだが、この事例では、インターン生を中心としながらも社員の皆さんが我がこととして積極的にプロジェクトに関わることが目指され、その点は十分に成果を上げたと言える。
    個人的には、社内の変化を丁寧にひもといたプレゼンになっていれば、さらに高い評価になったのではないかと感じている。
  9. 沖縄代表 「リアルタイム文字通訳システム『e-ミミ』を活用した、新規事業開発プロジェクト」
    聴覚障害者向けの即時文字通訳システムを、行政等に提案し広めることに挑戦したプロジェクト。
    東京の大学生が、当初沖縄で事業の全体像をつかんだ後、東京でこつこつと営業先を開拓し、自治体のセミナーやシンポジウムに導入実績を作った。
    その一方で、オペレーター向けのアプリ開発も行ったと言うから、なかなかに多才だ。
    沖縄と東京という「遠隔インターン」が成立した背景には、商品に高い社会性があったおかげということが挙げられるだろう。
    逆に言えば、そういう商材でなかった場合、インターン生が高いモチベーションで取り組み続けられるのかどうかという疑問を持った。
    とはいえ、インターン生のN君の『e-ミミ』に対する惚れ込みようがあふれかえるようなプレゼンテーションだった。

以上、自分なりの所感を示したが、所々で触れたように、あくまで個人的判断でることを改めて付け加えておく。

2015-11-07 14.29.06

審査基準のどこに重きを置くかは、審査員ごとに意見も分かれ必ずしも満場一致で表彰者が決まるものでもない。

地域×若者×チャレンジ

という視点で何を我々が大切にしていくのかを、審査員自身が振り返り議論し発信する。それに対して多様な意見が出される。
そのプロセス自体が、このエコシステムを少しずつ進化に導くものだと考えている。

というわけで、議論の種をまいてみた・・・というわけだ。

長文におつきあいいただき、ありがとうございます。

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