この三週間ほど論文書きに没頭していた。
テーマは

ディープ・アクティブラーニングにおける複雑性の活用。

知らない人が見ると、「なんだそれ?と言いたくなるようなテーマ設定だが、もちろんちゃんとした意味があってのことだ。

この論文を書いた根源的なモチベーションは、今ちまたで拡がっている『アクティブラーニング』と称する者に対する違和感だ。
グループワークやPBLさえすればアクティブラーニングであるといった浅い考えで取り組む例が少なくない上に
ワークショップ屋さんが「専門家」と称して大学教育を語る現状を見聞きするたびに、

大学教育におけるアクティブラーニングをちゃんと再定義する必要がある

と考えるようになった。
要するに、目先の学習技法ではなく、「知を生みだす場」としての大学にふさわしい学びのスタイルとしてアクティブラーニングを捉え、それがどのようにすれば生成されるかを示したいと思ったのだ。
私自身は複雑適応系の考え方を元に、学習コミュニティをControlするのではなく、Harnessingすることを心がけている。
これは、学習コミュニティ自体が知を創発できるようにするためだが、具体的に何をすればよいかというのを示さなければ他の人が取り入れようもない。
そこで、以下のような流れを示すことにした。

  1. 学習とは系の中のエージェント間の相互作用による戦略のアップデートである
    (エージェントとはある一定の目的を持ち、周囲との相互作用の中で環境に適応したよりよいやり方=戦略を更新する存在)
  2. 戦略のアップデートには模倣を中心とした「知識型の浅い学習」と仮説検証を要する「探査型の深い学習」がある
  3. 「探査型」の行動をとるエージェントは系にゆらぎを与える、これがある程度優位になると系の中で知の創発が起こる
  4. 創発によって生じた知(メタ知)は、それぞれのエージェントの戦略決定に影響を与える
  5. ディープ・アクティブラーニングは、「知識型の浅い学習」と「探査型の深い学習」をバランスよく配置して、学習コミュニティ日の創発を引き起こし、それを通して個々のエージェントの学習姿勢を、より能動的・主体的なものに変革していくことである
  6. 6そのためには創発が起こりやすいように、教授者は、ある程度ゆらぎを大きくする=「探査型の深い学び」を促進することを求められる
  7. ゆらぎを大きくするのは、学習の場のマネジメントにあたり、場の設定のマネジメントとして、カリキュラムにおける「知識型の浅い学習」と「探査型の深い学習」の効果的な配置が、場のかじ取りのマネジメントとして、認知的コンフリクト変容的評価の機会を仕込むことが必要である
  8. 一般的なアクティブラーニングは、学習コミュニティの変容を意識せずに、認知的コンフリクトと変容的評価の機会を作っているが、全体像を意識したとき、これらはさらに効果的な手法になる

 

図1

学習コミュニティの変容まで意識すれば、教室内でのファシリテーションなどは本当に枝葉に過ぎず、カリキュラムを含む仕組みの部分がきわめて重要であることがわかる。
また、21世紀型スキルとかコア・コンピテンシーとか、「社会から求められる能力」論に踊らされることなく、大学ならではの専門知の追究を通して、この1〜8のプロセスが進んでいく必要がある。なぜなら、文脈と切り離された能力(○○力のたぐい)など存在せず、何らかの知的取り組みの成果として、全体的な能力が向上するからだ(「人間力」とは意味が違うので、念のため)。

専門知およびその作り方を学ぶプロセスをカリキュラムと個々の授業に再帰的に組み込む

それが大学におけるアクティブラーニングの姿なのだ。