講演録:大学は地(知)の拠点になっているのか

岡山県立大学のCOC+シンポジウムにて

企業・自治体と大学の相乗効果
大学は地(知)の拠点になっているのか

と第して、基調講演をさせていただいた。

基調講演と行っても、話している内容は普段とそれほど変わるわけでもなく、COC+事業をどのように捉えて、地域とどのような連携をすべきか、宮城の事例を踏まえてお話した。

話の要点は以下の通り

1. COC、COC+事業の背景

「高等教育の質保証」 が求められる中、自己点検評価から第三者評価へ、 そして「地域、社会と連携した質保証」 へという流れの中で、地域や社会の養成を受け入れつつ、主体的に生涯に渡って学び続ける力を提供する教学マネジメントが求められるようになった。
このことと、大学の機能分化の流れ、地方創生の流れの交わったところにCOC+がある。

そこでは、教養、知識、経験を基礎に、批判的思考力や、倫理的・社会的能力、想像力・構想力からなる「学士力」が身につくことが求められている。
また、アクティブラーニングが求められるようになった背景もここにある。

2. カリキュラムの改革

従来のカリキュラムでも各専門分野ごとの学びの内容や学び方はしっかり体系化されている。
我々は、そこに「浅い学習」から「深い学習」へと年次進行に従って学習活動が変容するプロセスを、COC+で新たに作った「地域教育科目」というミニカリキュラムに組み込んだ。

同時に、学びのアプローチを、知識伝達型からフィールド体験型を経て、仮説検証型に変化させていくように科目を配置した。

更に、地域との連携という側面では、特定地域のことを知ることよりも、 「地域をテーマにして学ぶ」 ことを通して、我々を取り囲む時間的・空間的な文脈を理解し、そこでの専門知の活用を考える機会とした。

試験的なミニカリキュラムということで、自由に擬似ディプロマポリシーやカリキュラム・ポリシーを設定した。
ここでは

学生は自ら仮説を設定し、試行錯誤しながら、より適切な解を導き出すことを現場で実践できるようになる

ことを擬似ディプロマ・ポリシーとし、そこに至るために、座学、調査、実践型インターンシップのそれぞれに取り組む三科目を配置した。

この三科目では、 各学生個人の能力の開発もさることながら、学習コミュニティを作ることを重視した。
これは教室の中にとどまる話ではなく、企業や地域の中でも必要な、 知恵を集めやすい・知を作りやすいコミュニティ づくりということにつながっている。
そのために必要な、認知的コンフリクト、相互作用、形成的評価の三つの要素をそれぞれの授業の中に組み込むようにした。

3. 自治体との協働

自治体との協議・連携では、自治体が目指す将来像と、そこに向かうための課題について確認した。短期的には人材の確保、長期的には付加価値の高い企業の育成となっており、知を創る現場である大学としては、長期的な課題にコミットするのが望ましく、地域の中に付加価値の高い、中核になるような企業が増える環境をどう作るかということを考えることにした。

短期的な課題については、自治体や金融機関、企業を中心とした取り組みが効果的であり、大学が中心となる取り組みと役割分担のするのが望ましい。

その中で、統計、信用、ネットワーク、政策化といった自治体の強みを十分に活用することが望ましい。

4. コーディネーターの役割

コーディネーターがやるべきこととして、四つのフェーズがある。自ら変革促進する実行フェーズ。それをできる人が誰かの変革促進をサポートする伴走フェーズ。その二つができる人が、他の資源を連結する連結フェーズ。ここが狭い意味でのコーディネートに当たる。そこまでできたら、問題解決案を提示して、場合によっては、政策にまで持ち込む。

この一連の流れをすべて行う人をコーディネーターと呼んでいる。それを誰が担うのか。例えば、自治体が主導して、自治体職員が担う場合もあれば、地域おこし協力隊の制度を使う場合もある。民間でコーディネート機関を作る場合もあれば、地域でコンソーシアムを作る場合もある。
どのような場合でも、責任を持ってこの四つのフェーズを回していかなければならない。

地(知)の拠点とは

5. 最後に

われわれは地(知)の拠点と言っている。しかし、大学が地(知)の拠点として存在するためには、そもそも地(知)の拠点としての役割を定義していないといけない。

地域、あるいは産業界の要望を受け止めるのは良いが、言われるままに流されていては、拠点にはならない。
足場のない状態で流されてはだめで、そういうた要望を受け止め、状況を理解し、一緒に将来像を描いて、その実現に向けたコーディネートを果たすのが地(知)の拠点で ある。

われわれが大学として地(知)の拠点を担う、その地(知)の拠点が地方創生を担うとしたならば、域学、産学の連携によって、地域、産業のイノベーションを起こしていかなければいけない。

これらのことを理解し、地域、あるいは企業と大学との連携、相互作用の中で、企業、地域のイノベーションマネジメントと、大学の教学マネジメントが共進化する。そのプロセスを促進することこそが、企業、自治体と大学が組む一番の意味ではないかだろうか。

今回の講演では、これまでにも増してずいぶん多くの方に助けていただいた。

中でも、当日資料のために事例を提供してくれた岐阜大学の松林さん、宮崎大学の桑畑さん、NPO法人ETIC.の伊藤さん&瀬沼さん、徳島大学の川崎さん、森脇さん、わざわざ大阪から来ていただいた巌さん、ご縁を頂いた藤井さん、宮城の事例を黙々と生み出しているみやぎCOC+関係者の皆さん、当日までお世話くださった岡山県立大学の皆さん、会場の皆さんにお礼申し上げます。


PowerPoint資料(約240MB)が必要な方は別途ご連絡ください

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