
私の(弊社)の仕事の中には、大学のマネジメント支援というのがあります。
大学というところは定型業務ばかりだと思われがちですが、学生の学びの質を高めるためには継続的な改善が欠かせません。
当然、そのためのマネジメントは企業のものと近い部分がありますが、大学独特のものもあります。
少し整理してご紹介しましょう。
目次
1. ゴールと戦略コンセプトの設定
大学(学校法人)には五年単位の中期計画を策定することが義務づけられています。これを義務として受け止めると、現状やっていることをそのまま記載したり、改善の計画をつくるにしても抽象的な表現でごまかしたりしてしまいます。
では、どうすればよいのでしょうか。中期計画を作成する第一段階として
中期計画のゴール
を設定することです。
企業にしろ大学にしろ、その存在意義を表すビジョンやミッションを持っています。ビジョンとミッションの違いについては
・ビジョン:自分たちははどうありたいか、何を追求し続けるか
すなわち、追求し続ける見果てぬ夢
・ミッション:自分たちは世界に向けて何をなすのかという価値観や原則
自組織の意図と目的、機能と戦略、関係者の幸福
と捉えるのがよいでしょう。
ミッションに関しては、大学では建学の精神とかスクールモットー、教育の理念などという形で表現されていることもあります。
それぞれのビジョンの実現に向けてミッションに従った活動をするのですが、その時間的な区切りとして中期計画終了時のゴール、すなわち
その大学が五年後にどういう状態になっているべきか
を明確である必要があります。
五年後の大学の姿を現すステートメント、到達を示す指標、数値目標があれば最も適切です。
これが中期計画の起点になります。
その上で、ゴールに到達するための戦略コンセプトを定めます。
これはゴール到達に向けて、大学全体として外さない基本的な方針です。
教育の方針にとどまらず、五年後の大学の姿を実現するために注力強化すべきポイントを、短いステートメントで示します。
ここまでの内容は、基本的には組織の最上位階層の役割ですが、比較的規模の小さな大学では参加する教職員の階層を広げて、全体の意思統一を図るという方法を採ってもよいでしょう。
2. ゴール実現するための戦略目標の設定とマッピング
中長期計画のゴールを要素分解し、ゴールに到達するために達成すべきシナリオを考えます。
その中で、なんとしても実現すべき事柄を戦略目標として設定し、それらがどのようにつながってゴールに至るかをマップとして図示します。
ゴールに至るシナリオが描けていて、それを整理するための視点が定まっていると、多くの人が理解しやすいものになります。
企業では、「財務の視点」、「顧客の視点」、「プロセスの視点」、「学習と成長の視点」の四つの視点からなる「戦略マップ」と呼ばれるものを用いますが、目的に応じて視点を加えることもできます。
例えば、「施設・設備の視点」があってもよいかもしれません。大学によっては、「社会の視点」を「顧客の視点」から独立させたり、「プロセスの視点」を「教育の視点」と「研究の視点」に分割する場合もあるかもしれません。
いずれの場合も、
ゴールに到達するまでのシナリオが明確で、
要所要所で実現すべき項目、すなわち戦略目標がはっきりしている
ことが重要です。
また、企業経営では「財務の視点」が最上位に来ますが、大学の場合は「顧客の視点」を最上位にし、「財務の視点」は全体と並列させるという手法を採る場合もあります。このあたりは、何を起点にマネジメントをするかという方針にもよります。実際問題として。大学で「財務の視点」を最上位にしても、教職員がそのためにモチベーション高く働くという姿は想像しづらいものがあります。
これは大学の各部局の責任者、事務責任者が参加してワークショップ形式で考えるのがおすすめです。
3. 戦略目標の達成のにむけたKPI(重要評価指標)の設定
各戦略目標に対して、何が実現すればその目標が達成できるのかというCSF(重要成功要因・・・つまり達成のために最も効果的な手段)と、それを何で測るのか、どんな数値や状態になればよいのかを示すKPI(重要評価指標)を設定します。
たとえば、戦略目標に「IR(Institutional Research 大学運営上の意思決定や計画立案に必要な情報の収集・分析・提供機能)の充実強化」とある場合、CSFは情報の収集・分析、KPIとしては情報分析の件数などが設定されるかもしれません(実際にはIRの分析件数は、全体のKPIが全部定まって初めてきまりますが)。
これらの実現に向けて、各部門で達成すべき事柄を整理し、部門の戦略目標、CSF、KPIを設定し、実現までのストーリーを一年ごとに刻み、年次のKPIに落とし込みます。
なお、KPIの設定は抜け漏れや重複がないように組織横断で考え、かつ全体で戦略目標達成のための優先度を定めます。
優先度が定まらないと、現場は往々にして「重要ではないが自分が理解しやすい・取り組みやすいこと」に力を入れてしまいますので要注意です。
この部分も、実際に作り込むことに意味がありますので2に関するワークショップの二週間後くらいに、案を持ち寄ってラッシュアップしていくというような形で作成するのが望ましいでしょう。
4. 各部門で年次のKPI設定、行動計画作成、そして実行
年次に分解された部門の戦略目標、CSF、KPIをふまえて、KPI達成のための仮説と具体的にどのような活動をどれだけ行うかという行動計画を定め、個人レベルの分担を定めます。
同時に進捗を管理する仕組み(週次のミーティング等)を整備します。
この仕組みが回らないと、「立派な計画ができてよかったね」という、最もむなしい結果となります。
毎週の進捗管理を重ねつつ、四半期ごとに評価と改善のためのミーティングを実施します。そこでは、、各部門ごとにどの戦略目標に責任を持って注力し、どのような仮説を持ってどのようなことを実行したか、その結果と成果をふりかえり、その上で次の四半期の行動計画を定めます。
第三四半期が終わったあたりで、その年度の仮のふりかえりとし、次年度の計画をつくるのがよいでしょう。
年度末に出てきた結果や成果は迅速に評価し、年次報告書としてとりまとめるとともに、次年度の第一四半期終了時に補正要因として取り入れます。
行動計画の作成についてはは、方法を学ぶSD研修を大学全体で実施した上で、個別の案を持ち寄って部門ごとにブラッシュアップする形式がよいでしょう。
一方、実行フェーズになると、管理職が適切な進捗管理とフィードバックを提供できるように、ハンズオン型の支援をしばらくする必要があるかもしれません。これは管理職の魔縁地面とに関する練度にもよります。定型業務に優れた管理職と、非定型の新たな取り組みが得意な管理職がいますので、その特質によって支援の仕方を変える必要があります。
ここまでのマネジメント(いわゆるIE Institutional Effective)を実施するようになれば、IRへの要求が自然に高まり、必要なデータの収集や分析も進むようになり、それを元により精度の高いマネジメントが可能になります。そうやって全体のマネジメントの水準を上げ、大学の質保証や改善を進めていきます。
蛇足になりますが、こういったマネジメントサイクルを教学部門に特化したものを教学マネジメントといいます。これについてはまた別の記事でご紹介しましょう。